約 1,076,904 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1400.html
魔法学院の門を潜って現れた王女一行は、王家と名乗るに相応しい豪華絢爛な出で立ちだった。整列した生徒達は一斉に杖を掲げれば、杖の音が小気味良く重なった。 馬車には至る所に金と銀と白金の飾りがあしらわれ、その馬車を引く四頭の馬達もただの馬ではなく純白のユニコーンである。 その後ろをついて進むもう一台の馬車も、引く馬はユニコーンではなく常識的な馬ではあるものの、馬車は王女の馬車に負けず劣らず……いや、むしろ王女の馬車よりも立派であった。 後ろの馬車は先帝亡き今、トリステインの外交と内政を一手に担ってきたマザリーニ枢機卿の馬車である。国民には妬みの対象となっているため人気は無いが、しかして馬車の質が如実に現在のトリステインでの権勢を示すものとなっていた。 お飾りの女王と、実際に国を担う者。その差が現れているという事だ。 二台の馬車の四方を固める王室直属の近衛隊、魔法衛士隊は漆黒のマントを身にまとい、静々と王女の護衛を相務める。トリステインの誉れを凝縮したかのような一行は、トリステイン国民には貴族平民の別なく歓声の対象となるべき存在であった。 だがジョセフは、イギリスやアメリカにすら愛国心を持っていない。トリステインに至っては何を言わんや。しかしだからと言って自分の所属している国にいちいち食って掛かったりするほど子供でもないため、周囲に倣って突っ立っているだけだった。 正門を潜った先には本塔の玄関があり、そこに立って王女の一行を迎えるのは院長であるミスタ・オスマンであった。 馬車が止まると召使達が駆け寄り、馬車の扉まで紅いフェルトの絨毯を敷き詰めた。 (どの世界でも大体やるこたァ一緒なんじゃのォ) イギリス王室の行事にも幾度か参加したことのあるジョセフは、妙な所で感心していた。 呼び出しの衛士が緊張した顔と声で、王女の登場を告げた。 「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなーーーーーりーーーーーーーっ!」 しかしその呼び出しと生徒達の期待に反して、馬車の扉から出てきたのはマザリーニ枢機卿だった。露骨なブーイングこそ無いものの、肩透かしを食らった生徒達の鼻白んだ空気が周囲に蔓延した。 だが続いて馬車から降りてきた王女が、枢機卿に手を取られて姿を現すと、生徒達から挙がった歓声が一気にそれまでの空気を塗り替えていった。 アンリエッタ王女は当年とって17歳。清楚な気品を漂わせる顔立ちに薄いブルーの瞳、たおやかな雰囲気と、国民の人気を受けるに相応しい美貌を持つ美少女であった。 (ほほー。やっぱり王女様というのはどこの国でも美人じゃのー) 王家や貴族は美男美女を代々優先的に選り好み出来るから、えてして美貌に恵まれるものである。魔法学院の生徒達もおおよそは美男美女で構成されている。無論例外もあるが。 王女は薔薇のような微笑を生徒達に惜しげもなく振り撒くと、優雅に手を振った。 「あれがトリステインの王女? あれが王女なら私は間違いなく女王だわ」 美貌を誉めはやされる王女の姿を一瞥したキュルケは、つまらなさそうに眉を顰めた。 「ねーえ、ダーリンは王女と私、どっちがキレイだと思う?」 と、横に立っているジョセフの腕に自分の胸を押し付けながら妖艶に問い掛ける。 「んあ? そりゃどっちもキレイじゃよ」 「だーめ、そんな曖昧な答えじゃあ。ちゃんと答えてくれなくちゃ拗ねちゃうんだから」 普段ならこの辺りでルイズが怒鳴りつけてくるはずだが、珍しくルイズの反応は無かった。 首を傾げながらジョセフがルイズの方を見やると、彼女は随分と熱心に王女を見つめており、横にいるジョセフとキュルケのやり取りすら耳に入っていないようだった。 こうやって黙っていれば深窓の美少女という形容詞がよく似合うルイズである。女性の審美眼には厳しいジョセフからしても、上位ランクに格付けされる。高飛車で意地っ張りでワガママなところもあるが、それでもジョセフにとっては可愛らしい孫であることは間違いない。 そんなルイズの横顔を見ていると、不意に表情がはっとしたものに変わり、ゆっくりと頬が赤らんでいくのが判った。 ルイズの視線の先を見てみれば、一人の魔法衛士の姿が目に入る。 立派な羽帽子を被った凛々しいその貴族は、鷲の頭と翼を持つライオンに跨っている。ありゃグリフォンか、と、コミック好きのジョセフはその幻獣の名を思い出せた。 ルイズはどこか夢見るような視線で彼を見ているのが判れば、ジョセフはとてもとても不快な気分になった。 目に入れても痛くないほど可愛がっていた一人娘を取ったばかりか、地球の裏まで連れて行ったあのクソ忌々しい若造のことは今でも許していない。あのせいで日本人の男を心底嫌いになったのだから。ちなみに日本女性は小柄で可愛らしいので大歓迎だ。 横を見てみれば、ついさっきまで腕にしがみ付いていたキュルケも目をハート形にしてルイズと同じ羽根帽子の貴族を見つめていた。 あいつは敵だ。紛う事無き敵だ。ジョセフの脳裏では羽根帽子の貴族が仇敵フォルダにばっちりと収められた。カーズやDIOと同ランクである。 生徒達の騒ぎにも頓着せず、相も変わらず本を読んでいるタバサは、ふと顔を上げて、そんなジョセフの姿を見て……ちょっとだけ溜息をついて、また本の世界に戻った。 その日の夜。 食事も終えて後は寝るだけ、という頃合である。 結局昼間からルイズの様子はおかしくなりっぱなしだった。部屋に帰ってきてからと言うもの、ベッドの上に腰掛けているかと思えば不意に立ち上がって部屋の中をうろうろ歩き回ったりまたベッドに倒れこんで足をばたばたさせたり。 着替えもしていないので、マントも着けたままである。 熱病に浮かされたようなルイズの振る舞いに、ジョセフの機嫌は悪くなりっぱなしだった。 (あークソックソッ! ホリイもこうじゃったッ! あンの若造に騙されてた時はこんな感じじゃったッ! ああいうのは大抵ろくでもない男じゃと相場が決まっとるんじゃぞッ!) 心此処にあらずといったルイズと、憎悪にも似た怒りを纏ったジョセフ。 剣なのに肝の太いデルフリンガーですら、下手に言葉を端挟むのを躊躇われる空気だった。 (やべえやべえ。こんな修羅場な空気そう滅多にあるもんじゃねーぞ) 武器屋で買われてからそんなに時間が経ったわけではないが、これは非常事態だというのは馬鹿でも判る。ジョセフもルイズもこんなに普段と違う雰囲気を漂わせていては、軽口を叩いてもろくな結果になることは有り得まい。 デルフリンガーはそんじょそこらの調子乗りな少年ではないので、自分のウィットに富んだジョークで場の空気を変えようと試みるほどの、チャレンジブルとも向こう見ずとも言える勇気は持ち合わせていなかった。 (よし。俺は寝よう。次に目覚めたらきっと事態が好転してるに違いない。きっとそうだ) デルフリンガーは勇気ある撤退を決め、眠りについた。 それからしばらく、ルイズだけが落ち着き無く動き回っていたが、不意にノックの音が聞こえた。 「む?」 怒りに染まっていた思考が現実に引き戻される。 始めに長く二回、続けて短いノックが三回。そのノックを聞いたルイズの意識も現実に戻り、はっとした顔になる。 急いで立ち上がるとドアを開けた。 そこに立っていたのは黒いローブにフードをすっぽりと被った少女だった。 注意深く周囲を伺ってから素早く部屋の中に入ると、後ろ手でドアを閉めた。 「……あなたは?」 ルイズの誰何の声に、黒ずくめの少女は口元に指を立てて「静かに」とジェスチャーをすると、ローブの隙間から杖を取り出してルーンを唱えた。すると部屋に光の粉が舞う。 「ディテクトマジック?」 部屋に舞った光の粉を見たルイズの質問に、少女が頷く。 「どこに目や耳があるとも判ったものではありませんから」 部屋に何者かが覗き見したり盗み聞きしたりする魔法の目や耳が無いことを確認してから、彼女はフードを外した。 フードを外したのはアンリエッタ王女その人である。間近で見た王女の横顔の美しさと言ったら、今まで鬱屈していた怒りを思わずジョセフが手放すほどのものだった。 「姫殿下!」 と、思わずルイズが膝をついたのを見て、ジョセフも倣って膝をついた。 「お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ」 王女はたおやかな微笑と共にルイズの名を呼んだかと思うと、感極まった表情で膝をついたままのルイズを抱きしめた。 「ああ、ルイズ、ルイズ、懐かしいルイズ!」 「姫殿下、いけません、このような下賎な場所に来られるなどと……」 「ああルイズ! ルイズ・フランソワーズ! そんな堅苦しい言葉遣いはやめてちょうだい、私達はお友達じゃないの! 私達はただのアンリエッタとただのルイズなのだわ、そうだと言って頂戴!」 王女のその言葉に、ルイズもまたアンリエッタを強く抱きしめ返した。 「ああ、なんて勿体無いお言葉! 姫殿下にそのようなお言葉を掛けてもらえるだなんて!」 普段の高飛車さは陰も見せないほどのかしこまった口調で受け答えするルイズと、超のつく美少女が二人固く抱きしめあう光景。 そう簡単には見れない光景を前にしたジョセフは、ひとまず(いやー、珍しいものが見れたわい。眼福眼福)と、今の光景を目に焼き付けることにした。 それからしばらく二人の思い出話に花が咲く。蝶を追って泥まみれになっただの菓子を取り合って掴み合いの喧嘩はしょっちゅうだのドレスを取り合って気絶するほどの蹴りがお腹に入っただの、美少女二人の十年前はなかなかバイオレンスだったらしい。 「ああ、おかしい。そうよルイズ、わたくしこんなにおなかが痛くなるほど笑ったのは一体いつぶりのことだったかしら。貴女が変わりなくわたくしのルイズでいてくれて本当に嬉しいわ」 「ええと。王女殿下とご主人様はどういう御関係なのかの」 毛布に座って所在無さげに二人のやり取りを眺めていたジョセフが、話の腰が折れたタイミングを見計らってルイズに聞いた。 「姫様が御幼少のみぎり、恐れ多くも遊び相手を務めさせていただいてたのよ」 ヴァリエールが公爵家だと言うのはジョセフは嫌と言うほど聞いていたので、すぐに合点する。公爵ともなれば王家からもかなり近い血筋であるため、同じ年頃のルイズがアンリエッタの遊び相手に選ばれたとしても何の不思議もない。 「でも感激です。姫様がそのような昔のことを覚えてくださっていただなんて……わたしのことなど、もうお忘れになっていてもおかしくないのに」 アンリエッタは、臣下の礼を弁えたルイズの言葉に溜息をつきつつもベッドに腰掛けた。 「忘れるわけないじゃない。子供の頃は毎日が楽しかったもの……何の悩みとも無関係で。出来ればあの何も分別のなかった頃に戻りたいわ」 深い憂いばかりで紡がれた言葉が、薔薇の色で彩られた唇から漏れた。 ジョセフは微妙に嫌な予感を感じ取った。高貴な者が友人とは言え臣下の部屋にただ旧交を暖めに来たのではないような気配が、ひしひしと感じられたのだ。 そしてジョセフの勘は非常に良く当たった。 そこからの話を要約すれば、アルビオンという国があるがそこでは貴族達が反乱を起こし、王室を今にも打倒しようとしている。 反乱軍が勝てば次に矛先を向けるのはトリステインであることは明白である。その為、ゲルマニアと同盟を結ぶ為の政略結婚としてアンリエッタがゲルマニアに嫁ぐことになった、と。 (ふうむ。妥当な話っつーところかのう。珍しいコトでもあるまい) 勉強嫌いのジョセフだが、歴史はエリナお祖母ちゃんから教わっているため非常に詳しい。どこの世界でも大体同じようなもんなんじゃのう、という感想がせいぜいである。本人が望んでいないのは口調と表情が嫌と言うほど主張しているのだが。 だが本題は此処からだった。 アルビオンの貴族達はこの結婚を妨げる為、血眼になってあるものを探しているという。 ジョセフはこんな話の流れになった時点で「ああ、これは致命的な何かがあるんじゃな」と察しが付いていた。だがルイズは、その答えを王女自身の口から聞かなければ信じられないとばかりに、顔を青くしながら問いかけ、アンリエッタは悲しげに頷いた。 「おお、始祖ブリミルよ……この、この不幸な姫をお救い下さい……」 そして顔を両手で覆い、床に崩れ落ちるアンリエッタ。舞台上での悲劇のヒロインの演技だとしても、少々演技過剰な点は否めない。 だがルイズはあっさりとそれにつられ、興奮した様子で次の言葉を求める。結婚を妨げるためのあるものとは何か、と。両手で顔を覆ったままのアンリエッタは、搾り出すような声で答えを返した。 かつて自分がしたためた一通の手紙、それがゲルマニアの皇室に渡ればすぐさま結婚は破棄され、トリステインは一国でアルビオンと立ち向かわなければなるまい、と。 すっかり興奮してしまったルイズは、自分も空想の舞台に上がって王女の手を取った。 「いったい、その手紙は何処に!? トリステインに危機をもたらすその手紙は!」 「それが……手元にはないのです。あの手紙は、アルビオン……反乱軍達と骨肉の争いを繰り広げているアルビオン王家の、ウェールズ皇太子の手の中にあるのです……」 「プリンス・オブ・ウェールズ? あの、凛々しき王子様が?」 ルイズの言葉に、アンリエッタは力なくベッドに横たわり、手を顔元に翳した。 傍から見ているジョセフの感想は(うっわー。三文芝居もいいところじゃのう。さあてそろそろ本題というところか……平穏な生活よさらば! OH MY GOD!)であった。 ウェールズ皇太子が捕われてしまえばあの手紙が貴族達に渡ってしまう、そうなれば同盟が破棄されてトリステインはあの恥知らずの貴族達とただ一国で立ち向かわなければならない……という意味合いの言葉を、随分と感情たっぷりに比喩も混ぜこぜて語る王女殿下。 王女の唇から感情たっぷり言葉が紡がれるごとにルイズの頭は前のめりになり、哀れな姫殿下をの忠実な下僕としての立ち位置を明らかにしていた。だが、公爵家三女の使い魔であるはずのジョセフは。どんどんと目が冷ややかなものになっているのを、二人は知る由もない。 「では王女殿下、私が為すべきことというのは……」 「ああ! ダメよ! ムリだわ! わたくしったら何と恐ろしい事を口にしようとしているの! 何を考えているの、貴族と王党派が血みどろの争いを繰り広げているアルビオンに赴くなどという危険なことを、大切なお友達に頼めるはずがないというのに!」 「何をおっしゃいます! たとえ地獄の釜の中だろうが竜のアギトの中だろうが、姫様の御為ならば何処なりとも向かいますわ!」 そしてルイズは、再び臣下の礼をとるべく膝をつき、恭しく頭を下げた。 アンリエッタの美しい顔を哀切に塗れさせての切ない言葉は、ルイズならずとも……特に、男ならば無条件で言う事を聞いてしまうであろう力を持っていた。だがそれは、王女という立場の人間が使うべき力ではなかった。 「姫様とトリステインの危機を、このラ・ヴァリエール公爵家三女たるルイズ・フランソワーズが見過ごすわけには参りません。是非、このわたくしめにこの一件をお任せくださいますよう」 貴族としての忠節を示すルイズの姿勢こそは立派なものである。フーケを捕らえたという自負もあるし、そして使い魔であるジョセフがいるという自信が、無理難題とも言える王女の願いを容易く聞き入れることになったのだ。 「ああ、ルイズ! わたくしのルイズ! このわたくしの力になってくれるというの? ルイズ・フランソワーズ! あなたこそ真のお友達だわ!」 「何を仰います姫様! 私の忠誠はあの頃からなんら変わりませんわ!」 ルイズの両手がアンリエッタの手を強く包み込むように握り締めると、アンリエッタのブルーの両眼から真珠のような涙が次々と零れ落ちていった。 「姫様! このルイズ、いつまでも姫様のお友達で忠実な臣下で御座います! 永久に誓った忠誠を忘れることなど、例え天が引っ繰り返ろうと有り得ませんわ!」 「ああ、忠誠。これが誠の友情と忠誠です! 感激しました、わたくし、あなたの友情と忠誠を一生忘れることはないでしょう! わたくしのルイズ・フランソワーズ!」 感極まった二人は涙に濡れながら固く抱きしめあった。 しかし、蚊帳の外から二人を見つめ……いや、観察するような目つきで見ていたジョセフの表情には、静かな怒りがありありと浮かんでいた。 それはかつて食堂で見せた、シエスタを責め立てるギーシュに向けられたものと同一。 その怒りはルイズではなく、アンリエッタに向けられていた。 「――のうルイズや。友情を確認しあってるところ、水を差すようで悪いんじゃが」 だが口から出た言葉は、あくまでも平静であった。 「あによ」 「戦争やってるところに行くワケじゃが、危険だという事は判ってるわな?」 「んなこと判ってるわよ。でもね、私がやらなくちゃいけないことだってあるわ! 危険だからって部屋の隅で震えてたら、このトリステインが危険に晒されるのよ!」 凛とした態度で言い切るルイズの言葉は、迷いがない。ジョセフは主人の揺ぎ無い言葉に、満足したように笑みを浮かべ……しかし、その笑みはすぐに消えていった。 「アルビオンに赴きウェールズ皇太子を捜し出し、手紙を取り戻せばよいのですね?」 ルイズの言葉に、アンリエッタは静かに頷いた。 「ええ、その通りです。『土くれ』のフーケを捕まえた貴方達なら、きっとこの困難な任務も成し遂げることが出来るでしょう」 「一命にかけても。なれば明日にでも学院を発たねばなりますまい」 「ありがとう、ルイズ。アルビオンの貴族達は既に王党派を国の隅にまで追い詰めていると聞きます。もしやすれば明日にでも敗北するかもしれません……」 ルイズは真剣な顔で、アンリエッタに頷いて見せた。 「では、明日の早朝。ここを出発致します」 ルイズの言葉を聞いたアンリエッタはルイズから、毛布に座ったままのジョセフに視線を移した。普段のジョセフならば、超がつく美少女を前にすればだらしなく顔を緩ませるところだ。が、今のジョセフは、何の感情の揺らぎも見せずにアンリエッタを見つめていた。 肩の上で切り揃えられた栗色の髪は柔らかく揺れ、ブルーの瞳は鮮やかな南海の海の色そのままに輝いている。肌は透き通るように白く、造詣の良いパーツが最良のバランスで配置された、小さくも形の良い顔。 だが美少女を前にしているはずのジョセフは、嬉しそうな顔をしていない。 また可愛い女の子にデレデレして、と不機嫌になりかけたルイズは――ジョセフの様子がどこかおかしいことに気付き、戸惑った。 あれ。ジョセフが怒っているような。どうして? To Be Contined →
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2213.html
ゼロと使い魔の書 第三話 夢を見ていた。 いつもの学生服に身を包み、風の吹く草原に立っていた。 誰かの気配がして、振り返ると自分の母親がいた。 目が合う。何を言うべきか思いつかず、とりあえず軽く会釈をした。 さびしくはない。The Bookに記憶が残っている限り、それを読み返すことができる限り、さびしくはなかった。 琢馬は目を覚ました。窓から差し込む光はまだ弱弱しく、日の出からいくばくも経っていない。時間が分からなかったが、 洗濯をしてから自分の主人を起こしても充分だろう。 体を起こすと、見覚えの無い毛布が自分にかかっているのに気づく。自分の主人がかけてくれたのだろうか。 毛布をたたんでいる最中、ふと気になることができて、The Bookを出現させる。 自分の体験した事、そして感情が赤裸々につづられたこの革表紙の本には、読むものの魂に記述の迫真性をもってそれが「実際に起こったできごと」 だと錯覚させる力がある。 ならばもしも自分が死んでいて、幽霊の類になっているのだとしたら、この本は読む者を即死させることができるのではないか。 そして自分の身に、一体何が起こっているのか。 クレイジーダイアモンドに殴られ飛んだはずの記憶まで、何故か落丁することなく揃っている革表紙の本をめくっていく。 目的の描写までたどり着くと、躊躇することなく視線を落とした。 分かりづらい記述は数回読んでやっと理解する、ということも別に少なくはなかったが、今回は何度読み返しても分からなかった。 まるで途中から別の小説のページを差し込んだみたいに、茨の館からこの世界までの記述までは、唐突に終わり、唐突に始まっていた。 復讐を果たして、新しい人生を歩もうと思っていた。ならこの状況は何も困る事ではない。後腐れが無い分、むしろ望ましいとも言える。元の世界ではつらいことがありすぎた。 結局謎は残ったが、あまり興味は無い。誰かを憎み続ける日々は終わったのだ。行きたいところに行く事はできないが、今の自分にはこれで充分だった。後は何か、生きる目的を見つければいい。 琢馬はThe Bookを閉じようとして、思い直す。 「トリスティン魔法学院 洗濯場」で検索。 →視覚情報での検索ヒット数、0件。 →聴覚情報での検索ヒット数、1件。 昨日、あの草原から石造りの校舎まで戻る途中、メイド姿の少女が自分の同僚に洗濯しに行くことを告げているのを耳にしていた。そのときの会話に、洗い場の位置についてが含まれていた。 琢馬は周囲に散らばっている服を集めると、自分の主人を起こさないように静かに部屋を後にした。 その冷たく無気力な顔に、どこか見覚えがあった。 日の出とほぼ同時に目を覚ましたタバサは、ルイズがサモン・サーヴァントで呼びだした平民についてベットの中で考えていた。 もちろん、自分の考えは思い違いのはずである。理性のレベルではあんな青年を見た事はない、と結論付けていたが、どうしてもそれだけで片付けられなかった。 顔を洗えば何か思い出すかもしれない。タバサは制服に着替えると洗面所に向かった。 水を出し、手をつける。春といってもまだまだ冷たい。 濡れた手で顔をこする。眠気の残る頭がゆっくりと冴えてくるのを感じる。 そして顔を上げ、鏡を見た。 「あっ……」 何のことはない。身近すぎて思い出せなかった。見覚えのあると思っていた青年の無表情な顔は、自分の顔だったのだ。 タバサは水が滴る自分の頬をなでる。ひどい。いつの間に自分はこんなひどい顔になってしまったのか。 鏡の前で微笑んでみようとした。無理だった。数年前までは何の造作も無く行っていたことが、何度も死線を潜り抜けた自分には、無理だった。 泣きたくなった。いや、実際泣いていたのかもしれないが、まだ拭っていない水滴のおかげで泣いていないのだと自分を納得させることができた。 洗面台に両手をつく。膝が震え、呼吸が速くなる。 一体いつまで自分はこの状態で生きていかなければならないのだろう。何とかしなければならないと分かっていても、何も解決策が思いつかず焦燥感だけが積み重なっていく人生。 ふと、タバサの中で今まで夢にも思った事の無かった考えが、打ち消せない勢いで膨れ上がる。 「母を殺して自分も死ぬ……?」 タバサは傍らの杖を取り上げると、素早く呪文を唱え大量の水を頭から浴びる。 もう考えてはいけない。時間はあるが、濡れた制服はすぐになんとかしないときっと授業に間に合わないだろう。考えてはいけない。 「きゅいきゅい?お姉さまどうしたのね?」 何の脈絡も無い気がふれたような行動に、シルフィードが気遣わしげな声を上げた。 前ページ次ページゼロと使い魔の書
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/984.html
味も見ておく使い魔-1 「今度失敗したら明日にしましょう。あなたならいつかきっとできますよ。」 黒いローブをまとった男性が、ため息をしながら同情を寄せるように話しかけてくる。 「いえ、コルベール先生、今度こそ成功させて見せます。」 そういいながら、私は泣きそうになるのをやっとの思いでこらえていた。 穴ぼこだらけの地面にひとり立ち、爆発を恐れて遠巻きに見守るメイジたちをたっぷりとにらみつけてから、 今日何度やったかわからない『サモン・サーヴァント』の魔法を唱え始める。 「来なさい! というか来てください私の使い魔!」 ひときわ大きい爆発が学園の敷地を揺らした。 20メルテにも達したであろう土ぼこりの中に、人影が二つ、見える。 一人は頭にギザギザのバンダナみたいなものを巻いている男で、こっちを見ている。 もう一人のおかっぱ頭は寝ている。気絶しているのだろうか? そんなことよりも。 使い魔が人?しかも二人?なにそれ、そんなのあり? 「―これが最後の警告だ!『怪しい真似』をするんじゃない!」 コルベール先生の声でわれに返る。あんなに立ち上っていた土ぼこりがどこにも見えない。 「わかったわかった。この娘に『危害』は加えない。約束しよう。 『この世界』と『この状況』について大体は把握したからな」 いつの間にか目の前にいたギザギザバンダナの男がさも小バカにした態度で先生に答えていた。 どうやら私は我を失っていたらしい。それにしてもこの距離に近付かれても気づかないなんて。 ただでさえ小さい『自信』ってやつがブッこわれそうだわ。 「先生、やり直しをさせてください!」 「だめだ、ミス・ヴァリエール。例外は認められない。」 ギザギザ男をにらみつけながら言うのはやめてください。怖いです。 「古今東西、人を使い魔にした例はないが、春の使い魔召喚の儀式のルールはあらゆるルールに優先する。 彼らのうち最低どちらか一人にはきみの使い魔になってもらわなくてはならない。」 そ、そんな… 「ルイズが平民を呼び出したぞ!しかも二人も!」 「すごいんだか、すごくないんだかわからないな」 「ばかね、平民よ。何もできないじゃない。二人いたって全然すごくないわよ」 「ルイズの様子が変じゃなかった?」 野次が飛ぶ。 「早く儀式を続けなさい。君が召喚に時間をかけすぎたせいで、 今日やるはずだった授業がまったくできなくなってしまったんだ。」 何よ、慰めてくれたっていいじゃない。 「ところで、どちらと契約を結ぶのかね?」 どちらにしようかしら。ううう、どちらもいやだわ。 「ちょっといいか?」さっきのギザギザが口を挟んできた。 「この場合は『二人とも』契約するべきじゃないか?」 マジデスカ? 「僕の理解が正しいとするならば、だ」 「使い魔の契約は『一人一体』ってのが普通のようだが、 彼女は僕達を召還した時点で、すでに『例外』だ。 使い魔が二人いてもおかしくはない。『何なら確実にできるように…』オホン!オホ!オホン! 『試してみる』価値はあるんじゃないか?」 「…君が変なマネをしないというなら、それが一番だろう」 ちょっと先生、何同意してんのよ。 「いいから早く契約したまえ」 しょうがないのでさっさと契約を結んでしまおう。 あきらめて、まずギザギザの方から儀式を始める。 「わが名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ヴァリエール…」 呪文を唱えていると、ギザギザの独り言が聞こえてきた。 「小娘のファーストキスなんざ別にどーだっていいが、 『ルーンを刻まれる体験』にはスゴク興味がある! ぼくは漫画家として最高のネタをつかんだぞッ」 ちいねえさま、泣いていいですか? っていうか何で私が初めてだって知ってるのよ? ズッギュウウン!! 「ふむ、珍しいルーンだな」 コルベール先生がギザギザのルーンを確かめる。 「この『ルーンの痛み』、こんな体験…めったにできるもんじゃないよ」 「これを作品に生かせば……」 「グフフ…と…得したなあ……」 「召喚されてよかったなあ~~……」 わ、忘れるのよルイズ。そう、あんな平民とキスしたことなんて一度たりとだってないのよ。 うん。そういうことにしましょう。 気をとりなおして二人目、いえ、初めての契約を、気絶しているおかっぱ頭におこなった。 様子をスケッチしてる平民?何のことです? 今度は契約がおわっても気絶したままだった。 「この男も同じルーンか…」 「それでは今日は解散」コルベール先生がそう告げると、生徒たちは「フライ」の魔法を使って学生寮に帰ってゆく。 「それと君、ミス・ヴァリエールに何かあったら私が許さないからな」 コルベール先生がよくわからないことを平民に言いながら飛び去っていく。 「なるほど、魔法をつかったらあんな飛び方をするのか。 これで今度空飛ぶ魔法を描くとき一味違ったリアルな雰囲気が描けるぞ…」 『変わった平民』ね… しかたなしにギザギザに声をかける。 「ねえ、あんた誰?」 「僕は岸部露伴。漫画家だ」 「マンガカ?マンガカってなによ。じゃなかった。 それはおいといて、あなたそこで寝てるおかっぱ頭をつれて私の部屋までついてきなさい」 「かしこまりました、」 男は立ち上がり、背筋を伸ばした姿勢でお辞儀をした。 なによ、礼儀はしっかりとしているじゃない。 「ゼロのルイズ様」 「何であなたがその仇名を知ってるのよ!」 「オレたちがここまで到達したことが……完全なる…勝利なのだ」 「これでいいんだ全ては…」 「運命とは『眠れる奴隷』だ…」 「オレたちはそれを解き放つことができた……」 「それが勝利なんだ……」 ブチャラティは、信頼する仲間が組織のボスと決着を果たしたのを感じつつ自分の魂があるべきところへ戻りつつあった。 しかし次の瞬間、自分だけが別の場所にひきずられていくのを感じた。 …目の前が真っ暗になる。 「何であなたがその仇名を知ってるのよ!」 少女らしき女の声がする。 気がつくと、感じなくなった重力を、再び全身で感じていた。 脈は規則正しく鼓動している。呼吸も正常だ。 生き返ったのか?それにしては傷の痛みがない。 それどころか、あるはずの銃創などの傷も完全になくなっている。 目を開けると、ピンクの髪をした少女と、ペン先のピアスをつけた男の姿が見える。視力も完全に回復しているようだ。 そして夕焼けの空に大きな月が二つ見える。ん?ふたつ? 「ここはどこだ?いったいどうなっている!?」 「それほんと?」 私は、テーブルを挟んで向かい側の椅子に座っている二人を見つめながら言った。 「ああ、本当だ…」 後から起き上がった男(ブチャラティというらしい)がうなずいた。 信じられない!二人とも異世界からきたなんて! あの後、ロハンとブチャラティは口裏を合わせたように『チキュウ』という場所から来たと主張しきた。 なにいってるのよ、月がひとつしかないところなんてあるわけないじゃない。 この二人、とくにブチャラティの方は相当な田舎ものらしく、メイジというものをまったく知らないようだった。 しかたなく、トリステイン魔法学園のことをや『契約』のことを説明する。でもハルキゲニアすら知らないって、どういうこと?まさかほんとうに異世界からきたの? 「つまり、『オレたちは君の使い魔になった。帰る方法はない。』ということか?」 その通りよ。 「君はオレたちの話を信じてないようだが、オレからすると君の話のほうが信じられない」 なに?急に立ち上がって。そんなに顔を近づけないで。 「だから、悪いが『確かめさせてもらう!』」 ベロンッ! (対ルイズ専用!「ザ・ワールド!」) (ドォーーーーーーーーーーン!!!) 1秒経過! 「ムッ!いいぞ!その『目が点!』な表情…スケッチしとこう」 2秒経過! 「ばっ、馬鹿な!この味は!ウソをついている『味』ではないッ!」 3秒経過! そして時は動き出す! 「こ、」 「こここ、この使い魔ったら、ごごご、ご主人様に、ななな、なんてことするのかしら」 もう一生ご飯ヌキ!いえ、むしろコロス! …その日一番の爆音が、トリスタニア学園に響き渡った。 「気、気を失う前に今のことメモとスケッチしとこう…」 戻る 味も見ておく使い魔-幕間に続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1013.html
朝起きて、まず一番にすべきことがある。 顔を洗う? 伸びをする? あくびをかみ殺す? 水差しの水を飲む? 用足し? 違う違う。 髪を梳く? 頬をはたく? ランニング? 意地汚くまどろむ? そうじゃないんだよね。 着替える? それはちょっと近いかも。でも正確には違うかな。 正解はまっさらなパンツを穿くこと。 睡眠という束の間の快楽を髄の髄までむさぼるために、わたしは就寝時パンツ穿かない派を通している。標榜はしていない。こっそりと続けている。 本来ならば、パンツを穿かないという行為は、メイジが杖を持たず戦場へ出るに等しい。 手荷物が一つ減るわずかなメリットに対し、自分の命を実質捨てているという高すぎるリスクを伴うんだけど、寝る時ばっかりは別。 どんな格好で寝てたって文句言われる筋合いは無いし、同衾するような相手がいたとしても、パンツが無くて恥ずかしいなんてことにはならない。 すでに臥所を共にしている時点で見るべきものは全部見られてるだろうしねえへへへへへ。 パンツという最強の防具かつ人間が持つ業の結晶ともいえる拘束具から解放されることにより、わたしはどこまでも深く深く潜っていく。 現実では本来の自分を見せることができないわたしに唯一許された箱庭――夢――の中、わたしは楽しむ。 時に○○○○○を×××××し、ほほほ、また時には□□□□□が△△△△で、むふっ、わたしとしては☆★☆★☆★☆★☆★……うっひっひっひ。 そう、夢は楽しい。寝る前につらつらと妄想に浸ることはもっと楽しい。だからといって現実を疎かにしていい理由にはならないけどね。 朝、目が覚めればパンツを穿く。その行為こそが現実への帰還、戻ってくる意思をあらわす。 パンツ一枚隔てた先にはファンタジーがある。それでもわたしは現実へ帰る。強く雄雄しく生きるために。 夢の世界を後にし、わたしは現実で戦う。走っても、風が吹いても、脚を上げても、見苦しいものが見える心配は無い。 あ、パンツ自体が見苦しいとかそういうことはないからね。わたしに似合う可愛らしさと金糸一本一本に丁寧な仕上げがなされた装飾性、家常茶飯邪魔にならない機能性、これらパンツに要求される全てを備えたクィーンオブパンツ。 キュルケ辺りに言わせればお子様パンツと言われるかもしれないけど、わたしに似合うという点で考えればやはりこれに落ち着くと思う。ちょっと悔しいけど、パンツの名誉のためにもわたしはそう思うんだったら。 しっかりと洗濯され染みの一つもないそのパンツを……別に洗濯しなくたって染みはないけど、穿く。 見事にジャストフィット。わたしのためだけに作られた芸術品ともいえるオーダー品を見て、パンツなんてただの布と言える人間がいるかしら。いるわけがないわよね。美しい物は美しい者にこそ相応しいってこと。 自分の容姿を鏡で確認し、自信をつける。明晰な頭脳を抜きにすれば、数少ないわたしの自慢できるものだもんね。これなら現実とだって戦える。 ちょっとポーズをつける。親指を噛んでみたり。四つんばいになって後ろを振り向く。両の腕で挟むようにして無い胸を強調。 「……何やってんのルイチュ」 鏡の向こうにわたしを見つめる一組二つの眼があった。振り向けばそこには一人の女。 「……誰?」 「誰ってねェ。昨日の今日でもう忘れたっての。あんたの使い魔だってば」 「あ、グェスか。……あんた今の見てたの?」 「大丈夫大丈夫、ご主人様の恥になるようなことは誰にも言わないって」 恥になるってことは理解してるのね。へえ。ふーん。ほお。くそっ。 昨日寝た時はサイズが合わないにもほどがある寝巻きを着ていたはずだ。そりゃグェスは細身だし、ネグリジェはゆったりした作りになってるけど、いくらなんでもわたしのは無理がある。 それでも本人は満足だったようで、サイズはギッチギチで膝小僧が隠れなくてもぐっすり寝ていた。 でも今は昨日もらった古着を着ている。ってことは……わたしはいつから見られてたんだろう。 問題ないよね? わたしの頭の中まで読まれたわけじゃないもんね? ね? 「ねえ、なんかアクセサリー的なモンない? できたらヘアバンド。この服じゃちょっとアレでさー」 昨日と同様に、グェスは許可も無く引き出しやクローゼットを漁っている。 この女は本当にもう余計なことばっかりで。こいつのせいで寝る前のおっぱい体操もできなかったし。背中と同じ胸になったらどう責任とってくれるのよ。 「あのねグェス。他人の部屋を勝手に探し回るってどういうことかしら?」 「気にしないでいいよ。昨日言ってたじゃん、使い魔とご主人様は一心同体って」 ああ言えばこう言う。たしかに言ったけど。何か釈然としない。ま、別に見つかって困るようなものはないからいいけどね。 男子達が楽しそうに語る失敗談でもっとも多く見られるものが「隠していた破廉恥な本を親ないしそれに近い誰かに見つかってしまった」というもの。 だけどそれは自業自得。何のために、首の上にご大層な頭が乗っかっていると思っているんだか。 わたしは違う。性的なものに興味を持ちながら、人に倍する、三倍、四倍、十倍もの煩悩を持ちながら、そのようなものを隠したりはしない。 絵を見れば、脳裏に焼き付けた後で燃やす。本を読めば、一語残らず暗記してから燃やす。一流の犯罪者は証拠を残す愚を犯さない。頭脳という書庫があれば、いつでも引き出すことができるもの。 バタフライ伯爵夫人の優雅な一日八十五頁では何が行われていたかと問われれば、主人公が夫の股間に顔を埋めながら昼間見た騎士のことを思っている場面だと即答できる。 メイドの午後二百二十七頁では何が行われていたかと問われれば、主人のお仕置きと称する陵辱が最高潮に達し、ついにメイドの……。 「ねえルイチュ、これ何?」 チェストの奥から取り出されたそれは、 「首輪よ。見て分からない?」 朝の支度をしながらわたしは答えた。グェスは親指と人差し指でつまみ上げ、胡乱なものを見る目で首輪を眺めている。失礼な。 「何で首輪なんてあるのさ。ひょっとして」 「勘違いしないでよね。使い魔を召喚したらつけてみようかなって思ってただけ」 これは本当。何か惹かれるものがあったのよね、使い魔に首輪って。 「ねえグェス。あんたアクセサリー探してたんでしょ。それ、どう?」 「それ……って首輪ァ?」 「ペット扱いするとかそういうのじゃないの。単なる装飾品としてどうかってこと」 けっこう値段のはる品物だったのよね。革は綺麗になめされてるし、艶を殺した金属部分も格好いい。箪笥の肥しじゃもったいない。 「首輪ねえ」 鏡の前で色々と試しているみたい。付属のチェーンをじゃらつかせたり、首輪をゆるゆるにしてつけてみたり。 けっこう似合うように思えるけど、グェスはご不満なようだ。 全身から立ち昇る、隠しきれないアウトローっぽさが強調されていいと思うんだけどな。 「これってさ。あたしよりもルイチュに似合うんじゃないかな」 「はあ?」 何を言ってるのこいつは。 「わたしに似合うわけがないでしょ。そんなものをつけてる貴族なんて一人もいないわ」 「違う違う、そのギャップがいいんじゃない。清楚で可憐な貴族の美少女にゴツイ首輪って組み合わせがさ」 うっ。そ、それは……イイ……かも。 「でもでも、お品が無いわよ」 「首輪なんてかわいいもんじゃない。あたしの頃は顔面にタトゥ入れたりインプラント埋めたりなんてのが当たり前。学生なんだからそれくらいやらなきゃ」 「そんな話聞いたことない」 グェスはわたしの肩に手を回し、耳元で囁いた。 「ちょっとでいいからさ。試しにつけてみようよ。似合わなかったらやめればいいじゃん。ね」 「でも」 「ルイチュが首輪してるとこ見たいなー。かわいいだろうなー。キレイだろうなー」 「……ちょっとね。ちょっとだけだからね」 強引に押し切られたふうを装いながら、わたしはちょっとだけ期待していた。 期待と言い表せるほどはっきりしたものではなくて、露天で買った安っぽい宝石を指につける時みたいな、そんな感じ。 えっと、ここをこうして、こう、かな。 きっちり締めると鉄の感触が気持ち悪いし、圧迫感がある。かといって、緩く留めたらだらしなく見えそう。 でも首輪にだらしないも何も無いか。鎖骨にかかるかかからないかくらいに垂らしてみた。ふむ。 鏡の前でくるっと一周。ちょっと不敵な表情で決め。ふむふむ。 「か……カッワイイイイイイイイイ! とってもとっても! 予想以上にいいじゃないルイチュ!」 「そ、そう?」 「すごいわこの倒錯感! 小宇宙的な背徳性! 食べちゃいたいくらい! まさに一枚絵って感じ! ドジスン先生が涙流すわ! ネズミの着ぐるみ必要なし! アニメ化決定! お人形にして遊びたいィィィッ!」 鳴り止まない拍手とよく分からない褒め言葉で讃えられて、正直ちょっといい気分。 わたしの目から見ても似合っているように見えた。 ブラウスの襟やマントで隠れるんじゃないかと思ってたけど、そんなものじゃ隠せない暴力的な存在感がある。 でもそれがきちんと全体に溶け込んでいるのよね。わたしという素材のおかげってとこかしら。ふふん。 「さて、それじゃ朝ごはんね。お腹ぺこちゃん。行きましょルイチュ」 「えっ、こ、このまま行くの」 「ごはんの前に何かすることでもあるの?」 「そりゃ……その……あの」 左見右見、戸惑うわたしに脱ぎ散らかされた衣類が目に入る。 「そうだ、洗濯はあんたがやってね」 「……ねえルイチュ」 グェスの声が優しさを帯びた。この声、昨晩も聞いたような……。 「今まではあなたが洗濯物をしていたのよね」 「ええ」 「他の連中は使い魔にやらせているの?」 「してないけど……でも、でも、わたしは人間召喚したんだからそれくらいいいじゃない。下僕がいればそれくらいさせたっていいの。着替えの手伝いさせなかっただけ感謝してほしいくらいよ」 グェスは微笑んだ。この微笑、昨晩も見たような……。 「あなたは貴族だけどまだ学生。洗濯一つにだって先生が込めた意味があるの」 「いや、でも」 「たしかに貴族はそんなことしないでしょう。平民がするべきことで、召使にやらせること。でも、だからこそ今やっておく意味があると思わない?」 グェスはわたしを抱きしめた。この胸の感触、昨晩も味わったような……。 「この世の全てに敬意を持つこと。平民や貴族だけじゃない。豚肉の一切れ、小麦の一粒にも感謝を捧げること。自分のために失われた命があったことを忘れないこと。豚や小麦を育てた人を思うこと。これって大切だけどとても難しいことなのね」 「……」 「貴族だって平民がいなくては生きていけない。平民の苦労を知れば、自然と感謝の気持ちも湧いてくるわ。それでこそ筋を通すことができる。先生達もそれを学んでほしいの」 ……そうよね。わたし達が面倒くさいと思ってやってることにも意味はあるのよね。 筋を通す、か。なんか懐かしいな。昔誰かが言ってたような……まさか使い魔に教えられるとは思わなかったわ。 「ふん。何よ偉そうに。わたしだってそのくらい分かってるわよ。ちょっと言ってみただけじゃない」 「ありがとう、ルイチュ」 「御礼言われる筋合いなんかないって言ってんの! ほら、いつまでも抱き締めてないでさっさと行くわよ。あんた暑苦しいのよ」 グェスを従えて部屋を出る。廊下に続く窓の一つ一つから、同じ形に朝日がこぼれていて、光の中では小さな埃がふわふわと踊っていた。 いつもと同じく安っぽいだけの風景なんだけど、なんとなく神々しく見えるのはなんでだろ。これが感謝の心ってやつ? わたしは静謐な気持ちで廊下を歩いていたんだけれども、おかまいなしに首の飾りは揺れていて、その重量がわたしの心を現実に呼び戻した。 「そうだ。これ、外さなきゃ」 「大丈夫だって、似合ってるもん。おどおどしてるとかえっておかしく見えるよ。堂々としてれば大丈夫」 そういうもんかな。いいのかな、これで。 「ほら、あの子こっち見てるよ。かわいいから驚いてるのね、きっと」 そう言われるとそんな気もしてくるなあ。洗濯の負い目も無いわけじゃないし、グェスの顔を立ててやりますかね。 背中で鎖をじゃらつかせ、わたしは歩く。 「ねえルイチュ。この鎖の端、持っててもいい?」 「は? なんで?」 「もしはぐれたりしたら困るじゃない。昨日来たばかりのとこで一人なんて考えたくもない」 「仕方の無い使い魔ね。本当頼りにならないんだから」 後ろの鎖をグェスに持たせ、わたし達は食堂へと入る。 みんな注目してるみたいね。平民の使い魔が珍しいってわけでもないみたい。わたし見てるし。 アクセサリー一つでここまでわたしを見る目が変わるとはねぇ。しょせんは見た目なのかしら。 マリコルヌうつむいてる。こっち見なさいよこっち。 キュルケもびっくりしてる。眼鏡の顔は変わってないけど、内心ではきっと驚いてるに違いない。 くふふふふふ、皆わたしにあてられちゃったみたいね。今年のルイズちゃんは一味違うのよ。 「なあ」 「なんだよ」 「ゼロのルイズがあの女を召喚したんだよな? あの女がゼロのルイズ召喚したわけじゃないんだよな?」 「たぶん」 「じゃあ、あれ何だ。あの犬の散歩みたいなのは」 「さあ。そういう趣味なんじゃないの」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/351.html
++第二話 僕は使い魔②++ 時刻は夜。 二人はルイズの部屋に居た。 頼りないランプの明かりと、窓から差し込む月明かりだけが二人を照らしている。 「信じよう」 花京院はそう言った。 ここへ来るまでの道のりで、信じるに足るだけのものは見た。 ドラゴンや巨大なモグラや見たことも聞いたこともないような生物が山ほどいた。 途中で、杖を振って水を自在に操っていたり、土の形を変えたり、炎を出している人たちもいた。 そして、極めつけは空に輝く二つの月だ。 いくら信じたくなくても、これだけ証拠があれば信じるしかない。 「ここが地球じゃない別な世界だってことを信じよう」 もう一度、花京院は繰り返した。 ベッドに腰掛けているルイズは、“だから言ったでしょ。一回で理解しなさいよ、ばか”と言いたそうにため息をついて、花京院を見た。 「で、今度はそっちの証拠を見せて」 「そっちの証拠?」 「そう。あんたが別の世界にいたって証拠」 面倒そうに手をひらひらと振ってみせる。 しばらくの間花京院は考えたが、やがてある物を思いついてポケットを探った。 取り出したのは二つの小型の無線機だった。 エジプトでDIOの屋敷に乗り込む前に、ジョセフが渡してくれたものだ。一つは承太郎に渡すべきものだったが、結局渡せなかった。 彼らはDIOに勝てたんだろうか……? 渦巻く不安を心の底に隠す。彼らは強い。きっと大丈夫だ。 無線機の一つの電源を入れ、ルイズに渡す。 「なによこれ?」 怪訝な顔でそれを見つめるルイズ。 「それを耳に当てて」 「だからこれが一体何だって……きゃあ!」 悲鳴をあげてルイズは無線機を放り投げた。 無線機はベッドの上で弾み、枕元に落ちる。 「な、ななな、なによこれ! 今、あんたの声が!」 「僕の世界では無線機と呼んでいる。遠くに離れていても会話ができるんだ。これはこっちの世界にはないだろう?」 「これ何の系統の魔法で動いてるの? 風? それとも水?」 「科学だ」 「カガクって、何系統? 四系統とは違うの?」 きょとんとした顔でルイズは尋ねてくる。その様子では貴族とも魔法使いとも思えない。ただの子供だ。 「そもそも魔法じゃない。根本的に違うんだ。とにかく、信じてもらえたかい?」 「うーん。少し怪しいけど。まあいいわ、信じる」 「じゃあ早速元の世界に戻してくれないか? 一刻も早く戻らないと仲間が大変なことになるんだ」 「無理よ」 あっさりとルイズは否定した。 その返答に花京院は少し焦る。 「ど、どうして?」 「だって、あんたの世界と、こっちの世界を繋ぐ魔法なんてないもの」 「じゃあ、僕は何で来れたんだ?」 「わたしにわかるわけないじゃない」 投げやりに答えるルイズに、花京院は怒りを覚え始めた。 仲間が危険だっていうのに、なぜもっと真剣に考えてくれないんだ。早く仲間の元に戻りたい。そして共に戦いたい。 「じゃあ、何で僕はこの世界に来れたんだ!」 ほとんど怒鳴りつけるような口調になっていた。 「そんなの知らないわよ! ほんとのほんとに、そんな魔法なんてないの! 大体、別の世界なんて聞いたことないもの」 「勝手に召喚しておいてそれはないだろう!」 「召喚の魔法はハルケギニアの生き物を呼び出すのよ。普通は動物や幻獣なんだけどね。人間が召喚されるなんて始めて見たわ」 「じゃあ、その魔法をもう一度かけてくれ」 「どうして?」 「元に戻れるかもしれないだろう」 ルイズは一瞬悩むように眉間にしわを寄せたが、首を振った。 「無理よ。召喚の魔法、『サモン・サーヴァント』は呼び出すだけ。使い魔を元に戻す呪文なんて存在しないのよ」 「とにかく試してみてくれ。成功するかもしれない」 「不可能。一度呼び出した使い魔が死ぬまで、唱えることもできないわ。それとも一回死んでみる?」 「いや、いい」 花京院はうなだれた拍子に、左手のルーンが目に留まった。 見たこともない模様だ。アルファベットでもない。この世界の文字なのだろうか。 「それはね、わたしの使い魔ですって印みたいなものよ」 ルイズは立ち上がると、腕を組んだ。 視線だけ動かして花京院はルイズを見た。 戻る方法がわからないなら探さなければならない。そのためにはこの世界での生活する場所が必要だ。彼女は真面目そうだし、言うことを聞いていれば衣食住は保障してくれるだろう。幸いにもここは学校のようだ。何かを探すのにも最適なはずだ。 花京院はゆっくりと目を閉じ、再び開いてから顔を上げた。 「……わかった。しばらくは君の使い魔になろう」 「いい心がけね」 「それで、使い魔って何をすればいいんだ?」 「まず、使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるわ。でも、あんたじゃ無理みたいね。わたし、何も見えないもの」 「それで?」 「他にも秘薬を見つけたり、あと、主人を敵から守るって役目もあるわ。これが一番重要なんだけど、あんたじゃ無理ね」 実際は花京院には“スタンド能力”がある。花京院のスタンド、法皇の緑(ハイエロファントグリーン)は力こそ弱いが、射程距離が長く、エメラルドスプラッシュという技もある。並大抵の者には負けはしないだろう。 だが、反論する必要もないので、花京院はそのことについて何も言わなかった。 「だから、あんたには、洗濯、掃除、その他雑用をやってもらうわ」 「わかった。でも、帰る方法を見つけたらその時は帰らせてもらう」 「はいはい。そうしてくれるとありがたいわ。あんたが別の世界とやらに帰れば、わたしも次の使い魔を召喚できるもの」 言い終えて、ルイズはあくびをした。 「さてと、しゃべったら、眠くなっちゃったわ」 「僕はどこで寝ればいいんだ?」 ルイズは床を指差した。 「犬や猫じゃないんだが」 「しかたないでしょ。ベッドは一つしかないんだから」 ルイズはそれでも毛布を一枚投げてよこした。 それから、ブラウスのボタンを外し始めた。 「君は何をやってるんだ?」 「寝るから着替えるのよ」 「そういうのは見えないところでやってくれないか」 「なんで?」 理解不能というようにルイズは小首をかしげる。 その態度に呆れながら、花京院は訊いた。 「貴族っていうのは男に見られても平気なのかい?」 「男? 誰が? あんたはただの使い魔じゃない」 「なるほど」 「それじゃ、もう寝るわ」 ルイズが横になったので、花京院も床の上に横になった。 すると、ぱさっと何かが飛んできた。 「これは?」 「明日になったら洗濯しといて」 「……」 花京院は放り投げられた下着やキャミソールを指で摘み上げた。 それから短く息をついて、それらを部屋の隅に置いた。 毛布をかぶり、横になる。 床は固いし、冷たくなっていて、とても寝心地がいいとは言いがたい。 ふと、一つの疑問が頭によぎった。 ひょっとして、死んだ僕がここにいるってことは、アブドゥルさんやイギーもここにいるんだろうか? そうだといいんだが。 目を閉じ、お腹を撫でた。風穴を開けられたお腹には傷跡すら残っていない。 まるで、夢の中の出来事だったとでもいうように。 でも、本当に僕は死んだ。デス13に襲われたときのような夢ではない。現実だった。 不安が心に広がり始める。考えるときりがない。 ぶんぶんと頭を振って、花京院は頭から毛布をかぶった。 To be continued→
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/410.html
逆に考える使い魔-1 逆に考える使い魔-2 逆に考える使い魔-3 逆に考える使い魔-4 逆に考える使い魔-5 逆に考える使い魔-6 逆に考える使い魔-7 逆に考える使い魔-8 逆に考える使い魔-9 逆に考える使い魔-10
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/529.html
フーケ騒ぎも一段落して、おれの生活も落ち着いてきた。 まあ慣れてきたとも言うがそんなことはどうでもいい。 今回はそんなおれの一日を紹介しよう。 まず朝。おれはルイズの使い魔(まだ認めてないが)なのでルイズを起こさなければならない。 そんな訳で床で寝ているルイズに奥義暗黒吸魂輪掌破を叩き込む。 ルイズが起きたのを確認し、 「おはようございますご主人様。では食事にいってきます」 何をされたか分かってない内に逃げ出す。さあ朝飯だ。 「はい、どうぞ。よく味わってくださいね」 朝飯は最近シエスタからもらっている。ギーシュを倒した事への感謝らしい。 普通に使い魔用の食事より美味いのでこっちからもらう。 朝飯が終わったらルイズに合流するのだが、合流する場所は他の使い魔と同じく食堂の入り口だ。 「よっす」 「……」 無言で睨んで来る。おれはそれを無視してルイズの後ろについて行く。 教室でおれはルイズの斜め後ろに陣取る。ここなら蹴られることも無いからだ。 基本的に授業中はおれは横になって過ごすのだが、たま~にマズイことになる。 いつかみたいに大怪我するかもしれない危険があるのだ。 それはルイズの魔法だ。前にも言ったと思うがルイズは爆発の魔法が使える。 いや、正確にはそれしか出来ないのだ。 もっと言わせてもらえば爆発する魔法なんてものは無く、すべて失敗らしい。 失敗すれば爆発するってのもおかしな話だがそんな事も言ってられない。 逃げなきゃ爆発の衝撃を受けるからな。そして今日もそうだった。 「先生!わたしがやります!」 おっとルイズが実技をやるらしい。それを聞いたおれはルイズの机の下に隠れる。 これで準備完了。いつでも来いってんだ。 そしてまあ案の定爆発騒ぎを起こすルイズ。 あんな棒切れ一本でテロ行為が出来るんだからたいしたもんだ。 だがおれはそう呑気にしてられない。次の行動に移らなければ。 ルイズに近寄り、こう言う。 「ご主人様!今の爆発で怪我をしたので治療してきます!」 そして教室を抜け出す。こうしないと片付けを手伝わされる。そんなの嫌だ。 さて、思いがけず暇になったので学院をうろつく。 おろ?アレはオスマンだ。アイツは声がむかつく。 なので走り寄って頭に飛びつき、髪をむしりながら屁をこく。 満足した。 しばらくうろつく。 廊下を歩いているとマリコルヌを見つけた。やっぱり休講になったらしい。 走り寄って頭に飛びつき、髪をむしりながら屁をこく。 満足した。 またしばらくうろつく。 階段を下りているとコルベールを見つけた。髪がないので無視する。 畜生。 もっとしばらくうろつく。 厨房のちかくで厨房の主、マルトー親父を見つけた。たまに餌をくれるので挨拶だけして通り過ぎる。 仕方ない。 まだまだうろつく。広場に出た。 あ、ギーシュだ。 問答無用でザ・フールをブチ込む。 最高だった。 昼食の後は午後の授業なのだが今日は気分じゃないので中庭で手下探しだ。 お、なんか良さそうなヤツ発見。鳥だ。 空を飛べるのはシルフィードがいるがこいつは鷹だからそう大きくない。 偵察や連絡など凡庸性はこちらが上だろう。 早速声をかける。 「おい、お前おれの弟になれ」 直球。おれが女なら惚れてるね。 ちなみにシルフィードはこうやって落とした。 「…お前がイギーか?手下を増やしているという?」 「ああ、そのイギーだ」 「仲間を集めて何をする?」 「この世界に知らしめるんだ。おれの存在を 使い魔の頂点たる者がいるって事を!! 誰もおれに逆らえなくなる 確実に世界は(おれにとって)良い方向に進んでいく」 「そしておれは使い魔界の神となる」 「まあ、目標が大きいのは良い事だが…おれは自分より弱い者につくつもりは無い」 「なら勝負しようぜ。お前の能力は欲しいからな」 「…いいだろう」 そして戦闘が始まった。 まあ予想していた通りだがなかなか強い。 空を飛ぶ相手との戦いが厄介な事は知っている。 あの時は片足を失ったが別にこいつはスタンド使いじゃあない。 あの氷野郎よりは楽だろう。 と思っていたのだが、氷とかの能力が無い分確実にヒットアンドアウェイを繰り返してくる。 それも中々速い。ザ・フールで倒すには加減が難しそうだ。 こっちも空中戦に切り替えるか。 「ザ・フール!」 スタンドで地面を蹴り、大ジャンプ。 そのまま飛行形態にして飛ぶ。 「そんなことが出来たとはな…」 「スゴイだろ?部下になるか?」 「まだ勝負は終わっていない!」 空中戦は専門でないため流石にヤツのほうが速い。 「空での戦いは風を味方につけた方が勝つのだ!」 もっともだ。だがそんな器用な事はおれには出来ないので、狙いは一撃必殺のみ。 左からの攻撃。まだだ。 右斜め前からの攻撃。これでもない。 背後からの攻撃。これも違う。 正面からの攻撃。これだ! 「ザ・フール!」 砂の檻を作り正面から来た奴を捕獲し、グルグルぶん回しながら下に突っ込む。 高度は50メイルくらいなのでザ・フールで防御するのも忘れない(もちろん鳥公も一緒に)。 「イギー・トルネード!」 地面に叩きつけられるヤツとおれ。 落下のダメージは砂で吸収したのでそれほどではないがかなり回転させたので意識が朦朧としてるらしい。 「おれの勝ちだな。」 「まさか…風を味方につける…どころか突き破るとはな。…おれの負けだ。」 よし、三人目の仲間だ。それはそうと落ち着いてから話せ、聞き取りにくいぞ。 気分がいいまま部屋に戻る。今日はいい仕事をしたぜ。 「バカ犬。ど・こ・に。行ってたのかしら?」 あ、ルイズの事忘れてた。 なんとかごまかさねば 「テヘッ☆」 可愛い仕草。おれなら間違いなく落ちるね。 結果?傷が増えたよ。 To Be Continued… 鷹のリョウ―イギーの仲間になった
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1578.html
ゼロ戦&少年こと『平賀才人』をルイズが召喚してからしばらくたったが、その肝心の才人が何故か全身包帯の半ミイラ状態でルイズの部屋で寝ていた。 「…ヘンなやつよねこいつ。あいつみたいにスタンドってのも無いのに意地張っちゃって」」 「まー、兄貴の二代目としては何とか合格ってとこだな」 「……あんたが最初ちゃんとやってれば、こんなことにならなかったのよ」 ルイズの目が少し赤いのは寝不足だからだというわけでもないようだ。 「あれだけうるさかったのが、鞘から抜いても全然話さなかったのに」 抜けば要らない無駄口をあれだけ叩いていたデルフリンガーが、あれから一言も口を利かなかったのだ。 「あー…まぁそりゃあな」 それを最後に一人+一振りが押し黙り沈黙が流れる。 少し時間をバイツァ・ダストするが、通称『悪魔の手のひら』こと『ヴェストリの広場』で才人と一人のメイジを囲むようにギャラリーが出来ていた。 まー、何故にこのような状況になったかというと、早い話『決闘』というやつである。 なお、『悪魔の手のひら』の由来は、ギーシュの首を掴んだ見えない悪魔の手という事からだbyマリコヌル 原因は、この『ヴェストリの広場』を『悪魔の手のひら』に変えた者。つまるところプロシュートにある。 才人には全く以って関係無いのだが、平民が貴族を決闘で斃したという事は他の貴族にとっても非常に屈辱的な事だった。 だが、グレイトフル・デッドの能力と現役暗殺者のプレッシャーもあり手が出せないでいた。 それ程ギーシュの死に様は凄まじいものだったのである。 で、そこに新たに現れたのが才人だ。最初こそある程度警戒されていたものの マジに平民と変わりないという事で、前々から良く思っていなかった生徒が決闘を仕掛けた。 一応、ザ・ニューガンダールヴ!という事も知っていたルイズだったが、相手はギーシュとは違うトライアングル。 ド平民という才人を止めはしたが、当人の性格的が負けん気が強いあたりルイズに似ている事もありホイホイついてきてしまったのだ。 ちなみにこのルイズ、一巡した世界というわけではないが、精神的にある程度鍛えられた事もあり寝床はともかく 才人の食事面や雑務などの扱いはかなり良い方だ。そんな事もあり才人のルイズに対しての好感度は結構高めである。 これで胸も多少あれば、のっけから惚れてたんだがナ、というのは初見の感想だ。 もっとも一番好感度を上げていた理由は『謎の組織の工作員で血も涙も無い殺戮マシーン』に殺されかけていたところを助けられたから、という事だが。 召喚され、当面帰れそうにない事と使い魔という事を聞かされた時は凹んでいたが 後ろに┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨という文字を出しながら迫ってくる金髪の殺し屋。 胸は『虚無』だが桃色の髪の美少女。一般的な価値からすれば、どっちを選ぶのは自明の理だ。いや、前者選ぶ人も居るけど才人は後者だ。 そのため、立ち直りは非常に早かった。 「いいのかい?逃げないでホイホイ着いてきて。俺は平民でも容赦しない男なんだぜ?」 「うるせぇ、誰が逃げるか」 才人がデルフリンガーを持っているが、止める気が無い事を悟ったルイズから渡されたものだ。 「ほんとに…!使い魔のくせに言う事聞かないんだから…何の力も持ってないくせに、そういうとこだけあいつに似て… はぁ…いいわ、やるならこれ使いなさい。べ、別にあんたの事を心配してるわけじゃないわよ!あんたはわたしの使い魔で『ガンダールヴ』なんだから!」 『あいつ』というのは気になったが、才人の頭の中に『お美事にございまする』という声が聞こえた程のクリティカルな台詞であった。 2分後 ヘナップ!もうホントごめんなさい。と言わんばかりに直撃を喰らった才人が倒れていた。 「ん?もうかい?ヴァリエールの使い魔のクセに意外に早いんだな」 確かに才人はガンダールヴだったが、その強さはテンションの高さによって変わるものだ。 魔法の事なんぞこれっぽちも知らない才人であるが故に 少しばかりそれが足りないでいたというのもあるが、デルフリンガーが魔法を吸わなかったのが最大の原因だろう。 (な、なんでプロシュートが使ってた時みたいに魔法を吸わないのよ…!) 焦ったのはデルフリンガーを渡したルイズだ。デルフがあればこそ決闘を許可したのだが、こうはなるとは思っていなかった。 才人が立ち上がろうとするが、もうスデにボロボロで、その脚は生まれたての仔馬かパンチドランカーのようである。 「へへッ…!誰が早いだって…?まだゴングは鳴っちゃいねぇ…俺はまだ世界を獲れるぜ…!」 最終ラウンド2ダウンを取られたボクサーのような台詞を聞いたルイズだが、完全にダメだと思った。頭だ。頭を打っている。 「まだ立つのか。…いいこと思いついた。お前、俺の下僕になれ。そうすれば許してやる」 「…とっつぁんよぉ…ちょっと油断しただけだ。良いパンチだったけど誰がお前みたいなムカつくやつの下僕なんかになるかよ」 「ああ…そうか。次は『ウィンド・ブレイク』だ」 風に吹っ飛ばされ壁に打ち付けられ一瞬意識が飛ぶ。ただまぁ、そのおかげで思考が正常に戻ったのだが。 「痛ぇ…参ったな…マジに魔法かよ…」 「サイト!もういいわ…!そこで寝てなさい!あとはわたしがなんとかするから!!」 ブッ倒れている才人の前にルイズが立ったが、鳶色の瞳は潤んでいる。 okこれもド真ん中クリティカルだ。そんな事を思いながら立ち上がろうとしたが、止められた。 「もういいわよ…だからそこで寝てて。わたしが召喚したせいでこんな事になってるんだから…わたしが『責任』とらなきゃいけないのよ」 暗殺者から教えられた行動に伴う『覚悟』と『責任』。短いような長いような時間だったが、少なからずそれを学習していた。 「あんたになにかあったら、プロシュートに何言われるか分かったもんじゃないんだから!」 「…誰だよ、そのプロシュートってのは」 「か、関係無いじゃない!もういいから…!ね!」 現在、心の直撃弾受けっぱなしの才人にとって、それはかなり気になるところだ。言うなれば、対抗心発動というヤツである。 それに伴い、体の痛みが少し和らぎ、剣を杖代わりに立ち上がる。 「…どいてろ!」 ルイズを押しのけ相手に向かうが、もうスデに詠唱を完了していたのか相手が杖を振り振り上げていた。 「そうか。それじゃあ…トコトン相手してやらないとな」 杖を振り下ろすと不可視の風の刃『エア・カッター』が才人目掛け飛んだ。 だが、杖が振り下ろされた時点で立ち上がったルイズが再び才人の前に立っていた。 ルイズ自身、前では考えられない行動だったが、考えるより先に行動していた。 (結構、影響されてたのね…) そんな事を考えて目を閉じたが、ルイズ自身は再びサモン・サーヴァントが成功したという事がどういう事かを考えていた。 サモン・サーヴァントは使い魔が死ぬまで行う事はできない。つまり、単身組織に闘いを挑み死んでしまったと思った。 そんな思いもあり、そう行動させたのだが再び突き飛ばされ地面に倒れる。 自分が居た場所に目を向けると、才人が居た。 元より高速で疾る風の刃だ。事前に読んでいれば別だが、軌道に自ら突っ込んだような形ではテンションMaxのガンダールヴでも到底回避できない。 「サイト!」 思わず叫び、切り裂かれる光景に目を閉じたが、誰のものでもない極めて軽い別の声がした。 「『使い手』としては兄貴には及ばねぇけど、相棒としては合格ってとこか」 「剣が喋ってる!?」 「よぉ二代目、デルフリンガー様だ。これからよろしくな」 「…ああ、あんた!うんともすんとも言わないで今まで何やってたのよ!!」 「仕方ねーだろ。ただ『使い手』ってだけで使われたくなかったんだからよ」 武器屋での事は思いっきり忘れているが、まぁこっちも成長はしているのだろう。 「それじゃあ、相棒。さっさと終わらせちまおうぜ」 その言葉と同時にルーンが最も光り体の痛みも全て消えた。 で、時間がキング・クリムゾンし冒頭に戻る。 「兄貴は精神力とかが半端無かったかんなー」 もうすっかり思い出話になっているような形で話していたが、今の使い手はプロシュートではなく才人だ、と思っているのだろう。 と、そこに寝ていた才人が何か苦しそうな声をあげた。 「う…あ…スイマセン…スイマセン…スイマセン!」 何やら謝っているようだが、その声が尋常ではない。 秘薬で治療はしたが、容態が悪化したのかと思いルイズがテンパっているが、なおも声は止まらず呻き声に変化した時は焦ったッ! 「ちょ…!なんだよあんたら!」 そう叫ぶ才人は6人の男に囲まれている。 ハッキリ言ってそのプレッシャーはとんでもないものだ。 踵を返し逃げ出そうとしたが、鏡を踏んだと思ったら何故か首だけの状態になっていた。 「なな、なんだよこれ!」 「お前の首から下のみ、入る事を許可したッ!」 ワケが分からない。さっきまで剣を握って広場に居たはずだ。これも魔法なのか!?と思ったが、目の前の男達は貴族みたいに杖を持っていない。 「ヒラガサイト…天国・地獄・大地獄・天国・地獄・大地獄…喜べ、ディ・モールト良かったな!こいつお前と同じ大地獄だぞ!」 奇妙なパソコンらしき物を持った男が自分のノートパソコンを慣れた手つきで動かしながら個人情報を漁り愉快そうに叫ぶ。 「あ、あまり喜べねぇよ…」 そう言うのはパイナップルのような髪型をした、これまた妙な体型の男が釣竿を持っていた。 「しょぉぉ~~~がねぇ~~~なぁ~~~まぁ、これからあいつと付き合うってのならそれぐらいが丁度いいかもしれねぇがなァ」 どこからともなく、一人では持ちきれないであろうオーディオセットを取り出したのはソリコミが入った坊主頭の男だ。 「根堀り葉堀りの葉堀りってよぉ~~~…去年散って地面に埋まった葉っぱを掘るって事らしいんだが… 掘りってのは分かる……スゲーよく分かる……掘らなきゃ埋まった葉っぱは見付からないからな… だがそれなら、なんで『地堀り』っていわねぇんだよォォォーーーーーッ!それって納得いくか~~おい…オレはぜーんぜん納得いかねぇ… ナメてんのかァーーーーッ!このオレを!掘ってるのは葉っぱじゃなくて地面じゃねーかチクショオーーー!どういう事だッ!どういう事だよクソッ!!」 眼鏡をかけた巻き毛の男が物に当たりながらこっちに向かってくる。 怖い。貴族なんて比にならないぐらい怖い。 「分からないでもないが…そろそろ止めておけ…」 落ち着いたような声がする。視線だけを動かしその方向を見るが、フードを被った男だ。 目の色が怖かったが、止めてくれた事に感謝した。 …が、次に出た言葉と現象にそれを撤回した。 「皆、そろそろ時間だ」 その言葉と同時に男達が整列する。何が起こるのか分からなかったが、瞼に釣り針が刺さりそれを糸で引っ張られ目を閉じれないようにされた。 その痛みに叫び声をあげようとするが、口は氷で固められ言葉を発することはできない。 シパァーーーーーーz_____ンという音がすると顎の下の石が形を変え、顔を斜めに上げるような台になる。 そうすると、目の前にレンズのようなものが空中に現れ太陽光がダイレクトに目に突き刺さる。 「オレ達のチームのスタンドの殆どを味わえるなんて滅多にない事だぜ?おいィーーー」 「オレのジェントリー・ウィープスをレンズ代わりにしやがってッ!クソッ!クソッ!」 「足りないのは兄貴のグレイトフル・デッドだけですぜ」 「こいつが、それを味わう前にオレ達の能力も全部教育しないとといけないな」 「それじゃあ…始めるとするか…」 「ふンがァァァァァァァ」 そうして丸刈りの男が持ってきたオーディオセットのスイッチを入れると大音量で音楽が流れ、六人の男達が一糸乱れぬ動きで踊り始めた。 ズッタン!ズッズッタン! 「うんごおおおおおおおおおお!!!」 ズッタン!ズッズッタン! グイン!グイン!バッ!バッ! ズッタン!ズッズッタン! ズッタン!ズッズッタン! ズッタン!ズッズッタン! グイン!グイン!バッ!バッ! 「うんがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」 ズッタン!ズッズッタン…… ………… …………………… 「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」 勢いよくベッドから身を起こし辺りを見渡す。 部屋だ。ルイズの部屋だ。 「夢…かよ」 全身汗だくだ。ハッキリ言って17年間生きてきた中、最大級の悪夢だ。 ベッドから降りフラフラと立ち上がるが、秘薬で治ったとはいえ病み上がり。さらに最悪の悪夢を見た事で再びベッドに倒れた。 だが、倒れた先は柔らかいベッドの感触ではない。いやまぁ柔らかいっちゃあ柔らかいが、何かこう暖かいモノ。 ルイズが下になっていた。 まだ目を閉じていた事に安堵し慌てて退こうとするが、時スデに遅し。 衝撃で目を開けたルイズが震えだしている。 「…わたしになにをしようとしたの?ねぇ」 「…あーいや、落ち着こう。な。不可抗力だから」 「一ついい事を教えてあげるわ」 笑顔だが、何かヤバイ。そういう顔だ。さっき夢の中で見た気がするんだから間違い無い。 「な、なんでしょうか。ルイズお嬢様…」 「ある人がねぇ…よく言ってたのよ。最初は分からなかったけど、それが今凄くよく理解できるの」 どこからともなく鞭を取り出す姿を見たが、動けない。蛇に睨まれた蛙の気持ちを理解していたッ! 「ブッ殺すと心の中で思ったなら、その時スデに行動は終わっている…っていうのよ………この…この…このエロ犬ーーーーーーーーーーー!!」 「おま…!俺は怪我人だぞ!それに不可抗力だっt………ギャーーー」 10分後、ボロボロになった才人とやっと落ち着いたルイズがマジに不可抗力だったと理解し、テンパりながら治癒の魔法をかけさせにいった事は言うまでも無い。 「…クソッ!マン・イン・ザ・ミラーかと思ったが何だよありゃあ」 ようやっと意識を取り戻し目を開けると見知らぬ部屋の天井だった。 スタンド攻撃かとも思ったが、前にも味わった事があるし何より場の空気が違う事に気付き半信半疑だが結論を出した。 「また、来ちまったってワケか?…洒落にもならねー」 しばらく寝ながら部屋を見回していたが、明らかに現代の、特に言えば日本のものではない。 そうこうしていると、部屋の扉が開き、よーく知っている色の髪が見えた。 ディ・モールト見知っているため文句の一つでも言ってやろうと思ったのだが、違っていた。 髪の色は同じだが、なんっつーかこう一つだけ、明らかに違っていたからだ。主に胸とかが。 「お目覚めですか?」 「…ここは何処だ?」 「その前に、こちらの質問に答えていただけると助かります。…どこでそれを?」 そう言って指差すのは風のルビーだ。ご丁寧に机の上に置かれているあたり、今すぐには敵では無いと判断した。 敵であるならば、こんな高価な物とうに消えている。 ただ、どう答えるかが問題だ。ウェールズから直接だが、素性も知れん相手に言う気にはなれない。 「…悪いが、誰とも知らんヤツにそれを言うほど、マヌケじゃねぇよ」 憮然とした口調で言ったが、相手は不快になるどころか寧ろ微笑んでいた。 「確かにそうでしたわ。ごめんなさいね。カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌと申します」 (……どっかで聞いたな) 何処だったかと必死こいて考えるが、一つ思い当たる事があった。 常人なら忘れてもいいが、情報を重視する暗殺者ならではと言えるだろう。 『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』 アホみたいに長い名前だったが、一致点はある。 まさかと思ってもう一度見たが、髪の色が同じで ルイズを大きくしたらそんな感じになるという事もあり、確証はまだ無いが心の中で一族か何かだろうと判断した。 「それで、どこでそれを?」 変わらない笑顔だったが、その目の奥底に確固たる意志の光を見た。 「…そいつを知ってんのは?」 「ご心配なく。今のところ、わたしだけですわ」 『今のところ』というからには場合によっては全て知らせる準備があるという事だ。 グレイトフル・デッドで乗り切ってもよかったが、状況の把握もままならないままそれをするのは自殺行為に等しい。 一応、確証を確実なものにするために最後の質問をしなければならないが。 「…ルイズって名前に心当たりはあるか?」 「わたしの小さいルイズをご存知ですの?」 これで確実だ。もう一度その笑顔を見据えるが、目を見て少なくとも現状では敵意は無さそうだ。 元ギャング視点から見ても裏切るようなタイプでもないし、ルイズの血縁であるという事も手伝って、ある程度の部分は隠しながらも話す事に決めた。 「分かってるだろうが他言無用だ。そいつは……」 プロシュート兄貴―ヤバイ『実家』にIN!! 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1077.html
翌日、キュルケは昼近くに目を覚ました 寝ぼけた頭で先ず今日が虚無の日であることを思い出し、次に今や焼け焦げた風穴と 化した窓を見て昨夜の事を思い出した 「そうだわ、ふぁ・・・・。色んな連中が顔出すからふっ飛ばしたんだっけ」 そして壊れた窓のことなど毛ほども気にかけず、起き上がると先ず化粧を始めた 今日はどうやってヴァニラを口説こうかと考えるとやる気がムンムン湧いてくる キュルケは生まれついてのスタンド使・・・・もとい狩人なのだ 化粧を終え、ルイズの部屋の扉を叩く その後キュルケは顎に手を置いてにっこりと微笑む ヴァニラが出てきたら抱きついてキスをする ルイズが出てきたらどうしようかしら、少しだけ考えるが (そのときは、そうね・・・) 椅子に座っているであろうヴァニラに流し目を送って中庭でもブラブラしていれば向 うからアプローチしてくるだろう キュルケはよもや自分の求愛が拒まれるとは露ほども思っていないのであった(昨夜 のはノーカウントらしい しかしノックの返事は無い 構わず開けようとするが鍵がかかっていた キュルケは禁止されているにも関わらず、『愛の情熱はすべてのルールに優越する』 というツェルプトー家の家訓に従いなんの躊躇いも無くドアに『アンロック』の呪文 をかけた 鍵が開く音がすると勢いよくドアを開けるが 「あら?」 部屋はもぬけの殻だった 「相変わらず色気のない部屋ね・・・・」 キュルケは部屋を見回し、ルイズの鞄が無い事に気づいた 虚無の曜日なのに鞄が無いという事はどかかに出かけたのであろうか、 そう思い今度は窓から外を見回した 門から馬に乗って出て行く二人の人間が見える 目を凝らせば果たして、それはヴァニラとルイズであった 「なによー、出かけるの?」 キュルケはつまらなそうに呟き、それからちょっと考えるとルイズの部屋を飛び出した ヴァニラを伴ったルイズはトリスティンの城下町を歩いていた 学院からここまで乗ってきた馬は町の門のそばにある駅に預けてある 「狭いな」 物珍しそうに辺りを見回したヴァニラが呟いた 白い石造りの街はまるで話に聞くテーマパークのようだ 魔法学院に比べると質素ななりの人間が多い、皆平民なのだろう 道端で大声を張り上げて果物や肉、籠などを売る商人たちの姿が ヴァニラに何処と無くエジプトの情景を思い起こさせた 「狭いってこれでも大通りなんだけど」 「これで?」 道幅は5メイルもない そこを大勢の人が行き来するものだから歩くのも一苦労である 「ブルドンネ街。トリスティンで一番大きな通りよ、この先にトリスティンの宮殿があるわ」 「ああ、有事の時の備えという訳か」 確かに道が広いと街中が戦場になれば守るべき箇所が増え敵の侵攻が容易になる、 もっともこの場合は技術レベルの問題もあるのだろう 「ほら、さっさと行くわよ」 一人納得するヴァニラを引っ張るようにしてルイズは狭い路地裏に入っていく 悪臭が鼻を突き、ごみや汚物が道端に転がっている 「・・・・不潔な」 「だからあまり来たくないのよ」 ルイズは四辻に出ると立ち止まり、辺りをきょろきょろと見回す 「ピエモンの秘薬屋の近くだったからこの辺りなんだけど・・・・」 それから一枚の銅看板を見つけ嬉しそうに呟いた 「あ、あった」 ヴァニラが見上げると剣の形をした看板が下がっていた どうやらそこが武器屋であるらしい 店の中は昼間だというのに薄暗く、ランプの灯りが燈っていた 壁や棚に所狭しと剣や槍が並べられ、立派な甲冑が飾ってある 二人の客に気づいた五十がらみの店主が店の奥から胡散臭そうに見つめ、 ルイズの紐タイ留めに描かれた五芒星に気づくとドスの利いた声をだす 「旦那。貴族の旦那。うちはまっとうな商売してまさぁ。お上に目をつけられるよう なことなんかこれっぽっちもありませんや」 「客よ」 ルイズは腕を組み、その台詞を一蹴するように言った 「こりゃおったまげた、貴族が剣を!おったまげた!」 「どうして?」 「いえ若奥さま。坊主は聖具をふる、兵隊は剣をふる、貴族は杖をふる、そして陛下 はバルコニーから手をおふりになる、と相場は決まっておりますんで」 「使うのは私じゃないわ。使い魔よ」 「忘れておりました。昨今は貴族の使い魔も剣をふるようで」 主人は商売っ気たっぷりにお世辞をいい、それからヴァニラを見上げるように眺め、 ごくりと息を飲んだ 「・・・・剣をお使いになるのはこの方で?」 ルイズは頷き肯定する 二人のやりとりを他所に店内へ品定めするように鋭い視線を巡らすヴァニラには 相当な威圧感があった 「私は剣のことなんかわからないから適当に選んでちょうだい」 主人はいそいそと奥の倉庫へ消えるがその背中は心なし煤けていた気がするが、 多分気のせい 「おっかねぇ客だ。適当にふっかけてとっとと帰らせるとしよう。 それに売れりゃ儲けものだ」 僅かに身震いすると出来るだけ見栄えのする剣を選んで店に戻る 「これなんかいかがです?」 見事な剣だった 1,5メイルはあろうかという大剣 柄は両手で扱えるように長く、立派な拵えである 鏡のように諸刃の刀身が光り、見るからに切れそうである 大剣としての本来の目的からは外れているようだが戦争に行く訳ではないのだ、 あまり関係ないだろう 「店一番の業物で、かの高名なゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿の傑作で。魔法が かかってるから鉄だって一刀両断でさ。使い魔の旦那なら腰から下げれやしょう」 勿論嘘なのだが店で一番立派という点では偽りは無い 店主はチラチラとヴァニラの顔色を窺うが興味が無さそうに一瞥をくれただけだった しかしルイズ乗り気だった、店一番と店主が太鼓判を押したのが気に入ったらしい 貴族はなんでも一番でないと気がすまないのである 「おいくら?」 「エキュー金貨で二千、新金貨なら三千」 「立派な家と森つきの庭が買えるじゃないの」 ルイズは呆れていった ヴァニラが生徒から巻き上げた金でも足りそうにない ルイズが店主に何か文句を言おうとするがそれは叶わなかった 「帰りな素人さんどもよ!」 突然誰かの声がし、弾かれたようにヴァニラが店内を見回すが店の中には三人しかいない 「誰だ?」 ヴァニラが眉間に皺を寄せ警戒していると店主が怒鳴り声を上げた 「やいデル公!お客様に失礼なことを言うんじゃねぇ!」 「デル公?」 見れば乱雑に積まれた剣の山の一本が、錆の浮いたボロボロの剣が喋っている 「それってインテリジェンスソード?」 ルイズが当惑した声をあげる 「そうでさ若奥さま。意思を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさ。 こいつはやたらと口は悪いは客にケンカ売るわで閉口してまして・・・・」 「まるでアヌビスだな・・・・」 ヴァニラは今頃ナイルの川底に沈んでいるだろう、或いは平行世界で虐げられている スタンドの名を呟くとその剣を手に取る 「おでれーた、てめ『使い手』か」 「『使い手』?」 「ふん、自分の実力も知らんのか。まあいい、てめ俺を買え」 偉そうにいう剣にどうしたものかと暫し悩んでいたが 「おい、こいつでいい」 ルイズに向き直り錆だらけの切っ先を向ける 「え~~~~~~~~?もっと綺麗で喋らないのにしなさいよ」 ルイズは心底嫌そうである 「こいつは何か知っているようだ。帰るための方法を探す役に立つかも知れん」 「立たなかったら?」 汚いものでも見るような目で剣を見るとヴァニラの顔を見上げる 「消し飛ばす」 「ならいいわ」 流れるような一連の遣り取りにデル公と呼ばれた剣は凍りついたように黙り込み 「店主、これにするわ」 「ちょ、ちょっと待った!やっぱ無し今の無しぃぃぃぃぃぃッ!」 盛大な悲鳴を上げた 「それなら百で結構でさ」 「安いじゃない」 「こっちにしてみりゃ厄介払いみたいなもんでさ」 店主はひらひらと手を振りながら言った 支払いを済ます間じゅう剣は騒いでいたがヴァニラ、ルイズ、店主の三人は奇妙な連帯感で無視していた 「毎度」 剣を取り、鞘に収めるとヴァニラに手渡した 「こいつの名前はデルフブリンガー、名前だけは一人前でさ。どうしても煩いと思っ たらこうやって鞘に入れれば大人しくなりまさぁ」 ヴァニラは頷いて剣を受け取ると腰から下げる 斯くしてインテリジェンスソード、デルフブリンガーは無事ヴァニラ・アイスのもの となり、デルフブリンガーは騒いでも聞き入れてもらえないので、考えるのを止めた To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1661.html
空賊船もといアルビオン王国最後の軍艦、イーグル号に乗って雲間を進んでいくと、大陸から突き出た岬と、 その上に建つ城が見えてきた。ウェールズによるとそれがニューカッスル城らしい。 「なんか、今にも折れそうな所にたってんなあ。」 「はは、実際そうだから何も言い返せないな。皇太子失格かもしれないね」 ウェールズが少し寂しそうに答える。 「ちょっと黙ってなさいよ」 空気の読めない発言をしたセッコをルイズが思い切り叩いた。 「いでえ・・・う、うおっ うおああっ!ルイズ、ルイズよお」 「いいから黙ってなさい」 「ちげーって、あれ、あれなんだ!あれ!」 あまりに騒がしいので仕方なく指差した方を見たルイズは、ぽかんと口を開けた。 「・・・」 曲がりなりにも軍艦であるイーグル号の軽く2倍、いや3倍はありそうな巨大な船が城の上空に陣取っている。 よく見ると船体から無数の大砲が突き出し、周囲には竜が舞っていた。 「あれは、ロイヤル・ソヴリン号。いや、今はレキシントンに改名されたのだったかな? 叛徒どもの旗艦で、ニューカッスルの空を封鎖している。もとは本国艦隊の旗艦だったのだがね、因果なもんさ」 ウェールズが説明した。 「さて、あんなものと正面切って戦えるわけもないので迂回するぞ。岬の下側にまだ知られてない港があるのだ」 雲中を通り、大陸の下に出ると、あたりは真っ暗になった。 「この辺りは貴族派の船が絶対に近づかない安全地帯さ。 もっとも、かなり熟練してないと座礁の危険があるがね。 なに、王立空軍の航海士にとっては造作もないことさ」 あいつらは、空に関しては錬度が足らないのさ、とウェールズは付け加えた。 しばらく闇の中を進んだところに開いた穴の中をゆっくりと上昇していくと、巨大な鍾乳洞の中に出た。壁が白く光っている。 岸壁の上には大勢の人が待ち構えていた。 「まるで空賊の秘密基地ですな。殿下」 「まさに空賊なのだよ。子爵」 ウェールズと共にタラップを降りると、一人の老メイジが走り寄ってきた。 「ご報告がございます、殿下。叛徒どもは明日の正午に攻城開始すると通告してきました。」 「してみると、間一髪だったわけだな。戦に間に合わぬは、これ武人の恥だからな! そうそう、こちらからも報告することがあるぞ、パリー。」 ウェールズは、にやりと笑った。 「喜べ、皆の者!硫黄だぞ!!これだけあれば無駄死にではなく、王家の誇りと栄誉を示して敗北することができる!」 ウェールズの実に嬉しそうな叫びに、周囲から歓声が上がる。 パリーと呼ばれた老メイジは、目に涙を浮かべて答えた。 「先の陛下におつかえして60年、こんな嬉しい日はありませぬぞ、殿下。して、その方たちは?」 パリーはルイズ達の方を見た。 「トリステインからの大使殿だ。重要な用件で、王国に参られた」 「これはこれは大使殿、殿下の侍従を仰せつかっておりまする、パリーでございます。 遠路はるばるようこそこのアルビオン王国にいらっしゃった。 たいしたもてなしもできませぬが、今夜はささやかな祝宴が催されます。ぜひとも出席してくださいませ」 パリーが、深く、深く頭をたれた。 “余計なことを言い出さないように”置いていかれたセッコは、給仕に案内された客室でボーっとルイズとワルドを待っていた。 パーティまではまだ時間があるらしい。 待っていると、扉が開いて悲しそうな表情のルイズだけが戻ってきた。 「あれえ、おっさんは?」 「殿下とちょっと話があるんですって。後、城内もちょっと見て回りたいとか。」 「ふうん。で、手紙はどうなったよ?」 ルイズは、懐から封筒を取り出した。 「もちろん、ちゃんとここにあるわよ。・・・やっぱり、恋文だったらしいわ。 何度読まれたのか判らないぐらいぼろぼろで、宝箱に入ってた」 「らしくねえなあ。ところで、どんなことが書いてあったんだ? アンリエッタの感覚ではやばい内容みてえだがよ。」 「それは、判らないわ。当たり前だけど読んではないもの」 全く、律儀な奴だなあ。 「読めばいいじゃねえの。」 「そんな無礼なことできるわけないでしょ!」 「いや、アンリエッタは取り返せと言ったけど、見るなとは一言もいわなかったしよお。 それに、その封筒、封されてねえじゃん。ウェールズも別に気にしないと思うぜえ。」 「そ、そうかしら」 「そうそう。」 「そ、そうよね、うん」 ちょっと躊躇ったものの、結局手紙を読み始めたルイズの顔が段々赤くなってきた。 どう見たって動揺してやがる。 「な、なにが書いてあるんだあ?」 「え・・ええ・・・えい・・・永遠の・・・」 「なんなんだよお。」 「ちちち誓う・・・」 「おいルイズ正気に戻れ。」 ルイズが落ち着くのを(セッコにしては)辛抱強く待ってもう一度声をかけた。 「なにが書いてあったんだ?」 「・・・始祖に誓う、愛」 「はあ?」 「要するに、結婚の時言うようなセリフよ、永久に思い出になるようなね。 確かに、結婚相手に見られたらまずいわ。重婚扱いになるかもしれないし」 「で、それがアンリエッタ以外の手に渡るとどうなんの?」 「婚約破棄、同盟解消で済めばいいけど、ヘタしたら敵対かもね。 でも、姫様の大切な思い出なのよ。ちゃんと、返してさしあげないと」 ・・・ 「ルイズよお、それちょっと貸して。」 「なんでよ。あなたこの国の字は読めないんじゃなかったっけ?」 「いいから。」 ・・・ 「わかったわよ」 ルイズは渋々セッコに手紙を渡した。 「こんな、こんなオレが、オレ達が生きるのに邪魔になるだけの秘密おあああ」 「何よ?」 「オレは、この秘密は、欲しくねええええええええええ!」 「ちょっとセッコ!何すんの!」 思いきり、手紙を握り潰す。一滴の泥が、セッコの右手から滴り落ちた。 「あ・・・ああ・・・この・・・この馬鹿ああああああああああああああ!!」 ルイズが絶叫する。 「どう、どうやって姫様に説明すればいいのよ!ワルドにだってこんなこと言えないわ!あんたなんか知らない!」 「いや、ちょっと待てってルイズ。」 「待たないわ!知らないって言ったでしょ、もう勝手にしなさい!」 「おいいいいい」 ルイズは、それきり部屋を出て行ってしまった。うう・・・ セッコが呆然とルイズを見送ってしばらくすると、ワルドが入ってきた。 「パーティが始まるらしいぞ。君も出席するんだろう?」 「んん、わかった、おっさん。・・・違った、ワルド。」 「まあ好きに呼んでくれて構わんさ。しかし、使い魔が主人を泣かせるのは感心せんな」 「オレは、悪くねえ。」 「そうは見えないが」 「けっ。」 パーティは、城のホールで行われていた。 簡易の玉座にはアルビオンの王、老いたるジェームズ一世が鎮座し、集まった貴族や臣下を見守っていた。 明日が決戦、しかも敗北は決まっているというのに、皆やたらと明るい調子だ。 セッコとワルドは会場の隅でそれを眺めていた。 「明日戦争だっつーのにこいつら何やってんだ?今から準備すりゃ一人でも多く殺せるかも知れねえし、 逃げるなら全員助かるかも知れねえのによ。飯が豪勢なのはいいんだけどな。」 それにしても、話し相手がいけ好かないワルドだけってのは気が滅入るなあ。 ルイズは怒り狂って何処かに出て行ったまま戻ってきていない。 ウェールズと話してみたかったが、ジェームズ一世の横まで行くのはさしものセッコにも躊躇われた。 「それが、誇りって奴だ。貴族でないきみにはわからないだろうがね。・・・逆もまた真なり、かもしれないが」 ワルドが珍しく、ゆっくり言葉を選んでいるような調子で答えた。 「そうかなあ。」 「そろそろ、開式の演説が始まるようだぞ。我々は所詮余所者だ。静かにした方がよかろう」 ジェームズ一世がよろよろと立ち上がると、会場の全員がいっせいに直立した。 そして、とても老人とは思えないよく通る声で演説を始めた。 「諸君。忠勇なる臣下の諸君に告げる。 いよいよ明日、このニューカッスルの城に立てこもった我ら王軍に 反乱軍[レコン・キスタ]の総攻撃が行われる。 この無能な王に、諸君らはよく従い、よく戦ってくれた。 しかしながら、明日の戦いはこれはもう、戦いではない。 おそらく一方的な虐殺となるであろう。朕は忠勇な諸君らが、傷つき斃れるのを見るに忍びない。 ・・・したがって、朕は諸君らに暇を与える。 長年、よくぞこの王に付き従ってくれた。厚く礼を述べるぞ。 明日の朝、巡洋艦イーグル号が、女子供を乗せてここを離れる。 諸君らも、この間に乗り、この忌まわしき大陸を離れるがよい」 しかし、返ってきた返事は全て「我も戦いたい!」「耳が遠くなった」「冗談じゃない」等、様々な意味で勇ましいものばかりであった。 それを聞いた老王は、涙をぬぐい、勇ましく杖を掲げた。 「よかろう!しからば、この王に続くがよい!さて、諸君!今宵はよき日である! 重なりし月は、始祖からの祝福の調べである!よく飲み、食べ、踊り、楽しもうではないか!」 辺りは喧騒に包まれた。こんなときにやってきたトリステインからの客が珍しいようで、 王党派の貴族たちはかわるがわるやってきてワルドとセッコに酒や料理を勧め、思い出話や冗談を言うのだった。 「大使殿!その鳥は中身ではなく蜂蜜を塗った皮を食すのですぞ!」 「あっ、それはスープではありません! それ、そこのパンとソーセージをからめて食べてごらんなさい、うまくて、頬が落ちますぞ!」 適当にそれらの会話に相槌を打ちながら、勧められる料理を平らげていたセッコは、ふと思い出し口を開いた。 「ところでよお、ルイズはどこ行ったんだ?」 「何をしたのか知らんが、きみが怒らせたんじゃないのかね。まあ、僕が探してこよう」 「そうか。」 それにしても、こいつらは本当に何を考えているんだろうなあ。 ワルドは誇りがなんとか、と言っていたがさっぱり意味がわからなかった。 ウェールズのほうを見ると、王の傍から離れ普通に談笑していた。 「よお、楽しそうだなあ。ウェールズ・・・じゃなくて、王様・・・は違う・・・空軍大佐・・・でもなくて・・・」 「はは、ウェールズで問題ないよ」 ウェールズはにこやかに笑った。 「わかった。」 「君は確か、ラ・ヴァリエール嬢の使い魔だったね。 しかし、人が使い魔とは珍しい。トリステインは変わった国だな」 「やっぱ珍しいのかあ?オレとしては、部下は動物より人の方がいいんじゃねえかと思うけどなあ。」 やっぱり、オレがおかしいのか?それともここが変なのか? 「それはそうかもしれないね。ところで、何か聞きたいことでも?」 「んん・・・うーん・・・」 「あるんだろう。構わないから好きに言ってくれ」 「じゃあ聞くがよお、オメーらはなんで逃げねえんだ? おっさ・・・ワルドも、ルイズもオレにわかるように教えてくれねえ。」 ウェールズは、少し首を捻ったが、力強く答えた。 「・・・守るべきものがあるからだ。君にも一つぐらいはあるだろう。 我々300人は、その守るべきものが同じ、というだけなんだろうな」 「難しいなあ、オレの守るべき一番大事なものは、オレだ。次に主、かなあ? だから、そう言われてもピンとこねぇ。」 「君は、純粋だな。まあ、わかるときは来るさ」 「あんまりわかりたくねえな。」 「我々は、そんな生き方しかできないのさ。そうだ大使殿、一つだけアンリエッタに伝えておいて欲しいことがある」 「なんだ?」 「ウェールズは、勇敢に戦い、勇敢に死んでいったと。 明日の朝には、イーグル号がトリステインに出発するだろう。君たちもそれに乗って帰ればいい」 「・・・わかった。」 そう言うとウェールズは王の傍へと戻っていった。 うぐぐ、どいつもこいつも・・・自分より大事なものが、この世にあってたまるかよ。 なんだか不愉快だ、もう寝るかあ。 セッコが用意された客室に戻ろうとホールを出ると、ちょうどルイズを伴って戻ってきたワルドと鉢合わせた。 「おや、もう戻るのかね?」 「腹はいっぱいになったし、ウェールズにも挨拶したからなあ。 それと、ここを脱出するのは明日の朝らしいぜえ。来るときの船に乗っけてくれるってよ。」 「そのことなんだがね、きみに言っておかねばならぬことがある」 ワルドの声がいつもに増して低くなった。 「うあ?」 「明日、僕とルイズはここで結婚式を挙げる」 「意味わかんねえんだが。戻ってからじゃだめなのか?」 「ぜひとも、僕たちの婚姻の媒酌を、あの勇敢なウェールズ皇太子にお願いしたくなってね。 皇太子も、快く引き受けてくれた。決戦の前に、僕たちは式をあげる」 「ちょっと待て、どうやって帰るんだよ。帰りの船は朝一番だつってたぜえ?」 そのとき、ひどく憔悴した表情のルイズがセッコの肩を叩いた。 「大丈夫よ。ワルドのグリフォンで戻るわ。セッコは先に帰ってなさい」 こいつ大丈夫かなあ。 「それならいいけどよお、オメーまだあのこと怒ってんの?オレは・・・」 「その話は、あとから聞くわ。とりあえず一旦お別れね」 ルイズとワルドはパーティ会場の方に行ってしまった。 すげえ・・・怒ってるんだろうな、畜生。 結婚して丸くなってくれりゃいいなあ。・・・無理かなあ。 そんなどうでもいいことを考えつつ、セッコは部屋に戻り眠りについた。 To be continued…… 戻る< 目次 続く